義経千本桜 鮨屋の段

あらすじ
 鮨屋の娘お里は、この家にいる弥助と祝言を挙げることになっている。兄のいがみの権太が入ってきて、母から三貫目の金をだまし取って帰ろうとすると、親父の弥左衛門が戻ってきたので、あわてて金を鮨桶に隠して、奧に引っ込む。 帰宅した弥左衛門は、ある生首を鮨桶に隠し、弥助をうやうやしく上座に据えて、維盛(これもり)の首を出せとの詮議が厳しいので隠居所の上市村へ隠れてくれ、という。そこへ、一夜の宿を求める旅人が来る。維盛の妻と子であった。維盛は再会を喜ぶが、事情を知ったお里は嘆くばかりである。以上の事情を知った権太は、したり顔で鮨桶を持って去って行った。
 詮議の梶原景時(かじわらかげとき)らがやって来た。弥左衛門が、維盛に替えての首を鮨桶から出そうとすると、桶の中にあるのは三貫目の金。その時、「首は取った」と権太が鮨桶を抱え、縄をかけた女子供を連れてくる。
 梶原は「よく討った」と権太を褒めて帰るが、実は維盛の妻子と見えたのは権太の妻と子。そして、首は親父の用意した首であった。
 

見どころ
 お里が弥助に、早く寝ようと言っても、弥助がもじもじしている。お里は戸口に立って、「お月さんも寝やしゃんした」という。お里は可愛くて、茶目っ気があって、はきはきした娘。弥助を維盛と知
らないうちは、弥助に対していつも能動的なのが、お里である。
 終局で、権太が親父に斬られてからの申し開きがあって、いがみといわれた男が、善に立ち戻る。もどり、といわれる歌舞伎の作劇法の一つである。もどりになるまでは、いがみの人格で終始しなくてはいけない。こういう演目の、これは約束である