一谷嫩軍記 熊谷陣屋の段

 「熊谷陣屋」は、戦いの悲しみと武士道の空しさを浮き彫りにした物語で、古典的な格調をそなえた名舞台として現代に伝えられています。
熊谷直実(くまがいなおざね)は、義経(よしつね)から「一枝を切らば一指を切るべし」という謎を含んだ制札を与えられて出陣しました。
若木の桜に例えて、平家の公家のつぼみの命を散らすなという義経の心を察した熊谷は、一の谷の戦いで我が子である小次郎(こじろう)を身代りに立て、平家の公家・平敦盛(たいらのあつもり)の命を助け、小次郎の首を首実検に差し出します。また、敦盛の石塔を建てた科(トガ)で引き出された弥陀六(みだろく)を、義経は幼い頃自分を助けた平宗清(たいらのむねきよ)と見破り、旧恩に感謝して鎧びつを与えます。
宗清はその中に敦盛が入っていることを覚り、義経と直実の志に感謝します。熊谷は武士道の無常を悟り、剃髪出家して諸国行脚の旅に出ます。